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既存の概念を壊すことなく、いかに人々が持つ先入観の合間を縫うようなものを作れるか-

 

シェットランドウールのツイード素材は、その概念を壊すことはせず、既視感のある残像を残しながらも、まだ見たことのない、触れたことのない、着たことのない新しさを表現する試みだ。

 

「シェットランドウールのツイードジャケット」

このワードだけで頭の中に具象的なイメージが浮かび上がる人はきっと少なくないだろう。それほどに、素材のテクスチャーも、国も明確で、トラッドの代名詞的アイテムのひとつである。

 

重厚感のあるそのジャケットは、文字通り重い。

その重さこそが何世代にも渡り残され着用され続ける理由の一つである一方、現代のライフスタイルにはなかなかマッチしずらいのも事実。シェットランドウールならではの素朴で力強いテクスチャーや、油分を多く含んだ糸の特性は活かしながらも、甘く織りあげ軽く柔らかな着心地を目指す。その表面に走る紫色のワイルドシルクは、素朴なツイードに鈍い光沢で視覚的変化をもたらしながら、一方では甘く織った生地の滑脱を防ぎ強度を高める重要な役割も果たしている。

 

 

 

 

見た目は平凡に見えるツイードジャケットも、ひとたび袖を通すとその先入観はいい意味で裏切られ、新しい価値観がむくむくと生まれてこないだろうか。ものにつけられた名称のもたらすイメージ、一般的に語られる情報の文脈がもたらす先入観に囚われることなく、実際に自分の目で見て、耳で聞いて、肌で触れて初めて認識するものごとの価値は必ずある。その積み重ねが強く確かな主観を作り、新しいものを受容する余白を自らの中にもたらしてくれるのではないだろうか。

 

そう考えながらも実は、自分自身がこの先入観の罠に陥っていたことに気付くのにそう時間はかからなかった。「シェットランドウール」という素材の名称、「ツイード」という生地の名前、そして「カーキブラウン」という色名。それらに対して目の前に出来上がったものは整合性がとれているのか、名前が正しくものを表現しているのか。そんな思考に捉われていたのだ。

 

どこに焦点を当てるかで見えるものや感じることは変わる。

自らも陥った先入観の合間を縫うような、そんなものづくりを目指している。