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新しいものが、時の経過とともに変化し唯一無二の表情を生み出す。それによって新しかったものの価値が、新しかった時以上に高まることは往々にしてある。時が進み、ものが使用され摩耗していき、劣化あるいは風化するその時間の経過によって価値が高まるというのは不思議なものである。

 

退色したスウェットを前に、もはやもともとどんな色をしていたものだったのか思い出せなくなっている。どれほどの時間を経過したかすらも測れない。そのスウェットは“退色したのだ”という事実だけが、唯一理解できることだ。どれほど色が抜けたのかも、空想の世界でしか再現できない。

 

 

杢グレーに染められた糸を、あえて晒らすことで時間の経過を表現した。その生地で製作したスウェットは、生まれたての新しいその時点で、すでに数年の時を経てきたような表情をしている。だがそれ自体は決して古くない、新しい一着なのだ。そしてここからも、着る人それぞれの癖や繰り返される洗濯、それでも拭えず残っていく染みや汚れとともに、このスウェットは時間を経て新しい表情へと変化していく。

 

今この時点が新しいのか、古いのか。この先に見える景色が新しいものなのか古びたものなのか。
進んでいるのか戻っているのか。
当たり前に一方通行に進んでいくと思っていた時間という概念を覆すような、この不思議な感覚が気に入っている。